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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(れ)1448号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人森田重次郎の上告趣意第一点について。

麻薬取締法三条一項但書には「但しこの法律の規定により麻薬を麻薬施用者から施用のため交付を受け又は麻薬小売業者若しくは家庭麻薬小売業者から譲り受け若しくは譲り受けた者がその麻薬を所持することはこの限りではない」と規定してあるから、この但書の適用のある場合は麻薬取締法の規定によって麻薬の交付を受け、又は譲り受けた者がこれを所持する場合に限られることは明らかである。それゆえ麻薬取締法施行数年前にその子女の病気に施用するため入手した麻薬であっても、同法施行後の所持については右但書の規定はその適用がないものと解すべきである。然らば被告人が所論麻薬を入手し所持する事実関係が仮りに所論のとおりであるとしても、右但書の規定を適用すべき場合に該当しないから、原判決には所論のような違法はなく、論旨は理由がない。

同第二点について。

原判決の認定した麻薬所持の事実は麻薬取締法施行後の事実であるから、その違法であるか否かは同法の規定に照してこれを判断すべきであること勿論である。而して同法の規定は同法施行前の合法的麻薬所持であっても同法施行後の所持については同法所定の許容規定に当らない限りこれを違法とする趣旨と解すべきであるから、原判決には所論のような擬律錯誤の違法はない。又原判決は前記の如く麻薬取締法施行前の所持を処罰しているものではなく、同法施行後の所持を同法違反として処断しているのであるから、行為当時の適法行為を処罰しているものではない。従って憲法三九条の規定に違反するとの主張は、原判決が同法施行前の所持を処罰しているものとの誤解に出発した論旨であって、採るに足りないものである。

同第三点について。

原判決は判示事実認定の証拠として被告人の原審公判廷における判示同旨の供述を引用しているのであって、その供述によれば判示物件が麻薬であることは被告人の自白しているところである。而して被告人は判示肩書に示す如く薬剤師の資格を有するものであるから、その供述から麻薬の認定をしたことは不当ではない。又判示麻薬が麻薬取締法第一条の何号に属する麻薬であるかについて特にその判示をしなくてもこれを違法とすることはできない。従って原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。

よって刑訴施行法二条旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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